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ドライバーの給料はなぜ上がらないのか──運賃が末端に届かない構造の話

どうも、タイガです。今回のお届け物は「日本の運送業の取組み」編。テーマはずばり、ドライバーの給料です。

この仕事を人に勧めるとき、一番よく聞かれるのがこの質問です。「ぶっちゃけ、稼げるんですか?」。今日はその質問に、感覚ではなく数字と仕組みで答えます。そして、なぜ長年「働きの割に安い」と言われ続けてきたのか、その根っこにある多重下請け構造の話をします。

まず数字から──長く働いて、安い

とらぼとらぼ
ふっふっふ、データ担当のとらぼだ。全日本トラック協会のまとめでは、トラックドライバーの労働時間は全産業平均より約2割長い。それなのに年間所得は、大型ドライバーで全産業平均より約5%低く、中小型では約12%低いのだ。長く働いて、安い。これがデータで見た現在地なのだ。

誤解のないように言うと、トラックドライバーの年収の「額面」自体は、全産業平均とそこまで大きくは変わりません。問題は時間です。人より2割長く働いて、ようやく平均に届くかどうか。時給に換算すると、この差がはっきり見えます。

しかも2024年問題の記事で書いたとおり、今は拘束時間に上限があります。「長く走って稼ぐ」という昔ながらの稼ぎ方が、制度的にできなくなった。だからこそ、時間あたりの単価──つまり運賃そのものを上げるしかない、という局面に業界全体が立たされているわけです。

給料の元手は運賃──なのに、届かない

ドライバーの給料の元手は、荷主が支払う運賃です。ここはシンプルです。ところが、その運賃がドライバーまでの道中で目減りしていく仕組みがある。それが多重下請け構造です。

荷主から仕事を受けた元請けが、自社のトラックで運ばずに別の運送会社へ回す。その会社もまた別の会社へ回す。2次請け、3次請け……と仕事が下りていくたびに、各社の手数料が引かれていきます。最後に実際にハンドルを握る会社に届くころには、元の運賃から大きく減っている。一番汗をかく人が、一番少ない取り分で働く構造です。

ちびトラちびトラ
えっ……運んでいない会社が、間に入るだけでお金を取っていくんですか?

仕事を右から左に流すだけなら、そう見えますよね。ただ、下請けに出すこと自体が悪ではないんです。繁忙期に自社のトラックが足りないとき、仲間の会社に助けてもらう。これは物流を止めないための大事な仕組みです。問題は、それが何段にも重なって、誰がいくら抜いているのか見えないこと。この「見えない」が、長年この業界の給料を押さえつけてきました。

国が示した「あるべき運賃」──標準的運賃

これに対して国は、まず「そもそも運賃が安すぎる」という土台の問題に手を打ちました。それが荷待ちの記事でも触れた標準的運賃です。国土交通省が「この水準の運賃なら、ドライバーに適正な賃金を払って法令も守れる」という目安を示したもので、2024年3月の改定では運賃水準が平均8%引き上げられました。

この改定、金額だけじゃなくて中身が画期的でした。待機時間料に加えて、積込料・取卸料といった荷役作業の対価を運賃とは別に明示したこと。そしてもうひとつが、下請け手数料のルールです。下請けに仕事を出すときの手数料は運賃の10%を、運賃とは別に収受するという考え方を示しました。つまり「手数料を運賃から抜くな、上乗せしろ」ということです。これが守られれば、末端のドライバーの取り分は理屈の上では減りません。

とらぼとらぼ
えっへん、浸透状況のデータもあるのだ。国土交通省の最新の実態調査では、運賃交渉を行った事業者は約74%。荷主から一定の理解を得られた事業者は全体の約55%まで来たのだ。ただし、標準的運賃の8割以上を収受できた事業者は約45%。「あるべき運賃」と現実の間には、まだ差があるのだ。

半分くらいの会社は交渉で前に進めている。でも、満額もらえている会社はまだ少数派。ちょうど過渡期の数字だと思います。

「誰が運んだか」を見える化する──実運送体制管理簿

そして2025年4月、多重下請けの「見えない」問題そのものに切り込む法律が施行されました。改正貨物自動車運送事業法です。柱は3つあります。

1つ目は、契約の書面化。 運送契約を結ぶとき、運賃や料金などの条件を書面(電子でも可)で交付することが義務になりました。「電話一本、言った言わない」の世界が終わります。

2つ目は、実運送体制管理簿。 元請けは、実際に荷物を運んだのがどの会社かを記録した管理簿を作ることが義務になりました。荷主から見えなかった「末端で誰が運んでいるのか」が、記録として残るようになったんです。

3つ目は、下請けの段数制限。 下請けに出すのは2次請けまでにする努力義務が課されました。今はまだ「努力義務」ですが、国は状況を見て3次請け以降の禁止も検討するとしています。

ちびトラちびトラ
「誰が運んだか」が記録に残るって、当たり前のようで、今までなかったんですね……。

そうなんです。建設業界では似た仕組みが先にありましたが、運送業はずっと「間に何社入っているか、荷主も知らない」のが普通でした。管理簿で構造が見えるようになれば、「この荷物、5次請けで運ばれてますけど」という話が荷主に届く。見えれば、直せる。荷待ちの記事で「記録に残った荷待ちだけが世の中を動かす」と書きましたが、給料の世界でも同じことが起き始めています。

次の一手は「最低運賃」──適正原価という新制度

そして今、この流れの本命ともいえる制度が動き始めています。2025年6月に成立・公布された改正法(いわゆるトラック適正化二法)に盛り込まれた、適正原価という仕組みです。

標準的運賃はあくまで「目安」で、強制力がありませんでした。適正原価は違います。人件費や燃料代などから算出した原価を国が示し、継続してそれを下回る運賃で運ばせる・運ぶことを許さない。事業許可の更新制とセットになっていて、原価割れの取引を続ける事業者は許可を更新できなくなる方向です。つまり、貨物運送の世界に初めて、法的な裏付けを持つ**実質的な「最低運賃」**が生まれようとしています。

とらぼとらぼ
ふっふっふ、これは大ニュースなのだ。バスやタクシーには昔から運賃の下限規制があったが、トラックは「標準」止まりだったのだ。2026年7月17日には国土交通省で第1回の有識者検討会が開かれて、原価の算定方法などの議論が始まったのだ。まずは年内をめどに提言をまとめる予定なのだ。

狙いははっきりしています。運賃のダンピング競争を止めること。そして、何段も下請けが重なって原価割れの運賃が末端に押し付けられる構造を、根っこから断つことです。制度の詳細はこれからですが、「安く買い叩かれたら断れない」業界の前提そのものを変える可能性があります。

じゃあ、給料は上がるのか

正直に言います。すぐ劇的には上がりません。標準的運賃には強制力がなく、下請けの段数制限も努力義務。適正原価も施行はこれからです。仕組みはそろってきましたが、効くまでに時間がかかるタイプの薬です。

それでも、方向ははっきりしています。運賃の目安があり、手数料のルールがあり、運送の実態が記録に残る。ドライバー個人にできることは少ないですが、会社を選ぶ立場なら見るポイントは変わります。荷主と直で取引しているか。標準的運賃を交渉の土台にしているか。 求人票の額面だけでなく、その会社が「何次請けの仕事を主にやっているか」は、給料の伸びしろを左右します。

タイガのひとこと

若いころ、先輩に「この仕事は距離で稼ぐんだ」と教わりました。今、その稼ぎ方は制度ごと終わろうとしています。寂しさがないと言えば嘘になりますが、体を削って走った分しか稼げない業界に、若い人が来てくれるとは思えない。

運んだ人に、運んだ分の対価がまっすぐ届く。書いてみれば当たり前のことが、この業界では何十年もできていませんでした。管理簿も、手数料のルールも、そのための道具立てです。道具はそろった。あとは使う側の番です。

今日もご安全に。

3人でひとこと

タイガタイガ
「何次請けの仕事か」って、面接で聞いていい質問だからね。ちゃんと答えてくれる会社は、それだけで信用できるよ。
とらぼとらぼ
ふっふっふ、労働時間は約2割長く、所得は大型で約5%低い。この差を埋める道具が、標準的運賃と実運送体制管理簿なのだ。数字は嘘をつかないのだ。
ちびトラちびトラ
「一番汗をかく人が、一番少ない取り分」って聞いてもやもやしましたけど、見える化が始まってるって知って少しほっとしました!
タイガタイガ
給料の話を堂々とできる業界にしたいね。それが一番の人手不足対策だと思うよ。

出典