荷待ち時間はなぜ消えないのか──「待たせる側」の義務になった今
どうも、タイガです。今回のお届け物は「日本の運送業の取組み」編。テーマは荷待ち時間です。
前回のペーパーレスの記事で、スマホで荷待ち時間を見える化する国の実証を紹介しました。今回はその「荷待ち」そのものを掘り下げます。トラックに20年乗ってきて、一番「もったいない」と思い続けてきた時間。それが荷待ちです。
荷待ちって、何をしてるのか
荷待ちを知らない人のために説明すると、こういうことです。指定された時間に集荷先や納品先に着く。でも、すぐには積めない。降ろせない。前のトラックが終わるまで、倉庫の準備ができるまで、伝票が回ってくるまで──ただ、待つ。
構内で待機列に並んで、順番が来るのを待つ。夏は冷房、冬は暖房が要るので、エンジンをかけたまま待つことも多い。走っていないのに燃料は減っていくわけです。30分ならいい方で、2時間、3時間という日もあります。しかもこの待ち時間、走ってもいないし荷物も運んでいないので、運賃になっていないことが多い。実は国のルール上は、荷主都合で30分を超えて待たされた分は待機時間料として請求できることになっています。国が示す標準的運賃でも、待機時間料は30分単位で積算する建て付けです。でも現実には、荷主との力関係で請求できていない会社がまだ多い。体は拘束されているのに、お金にもなっていない時間なんです。
そこなんです。ドライバーは時間通りに着いている。倉庫の人もサボっているわけじゃない。仕組みの問題なんです。着く時間がみんな同じ朝イチに集中したり、荷降ろしの順番が「先着順」だったり。だから個人の努力では解決できずに、何十年も業界の宿題であり続けました。
数字で見る荷待ち──1運行あたり約2時間
1日の2時間ですよ。1週間で10時間。これがそのまま、2024年問題の記事で書いた「拘束時間の上限」を圧迫します。荷待ちが長い日ほど、家に帰るのが遅くなる。単純な話です。
ただ、明るい話もあります。この調査、前回(2024年度)と比べると荷待ち・荷役等の時間が約3時間から約2時間へ、1時間以上減ったんです。国はこの要因として、次に説明する法律の施行を挙げています。何十年も動かなかった数字が、動き始めています。
「待たせる側」の義務になった──改正物流効率化法
2025年4月に施行された改正物流効率化法。この法律の何が画期的だったかというと、荷待ちの削減を、運送会社ではなく荷主の努力義務にしたことです。
考えてみれば当たり前で、荷待ちを発生させているのは待たされる側ではなく待たせる側です。でも長年、荷主は「お客様」で、運送会社は立場が弱くて言い出せなかった。それを法律が「荷主のみなさん、荷待ち時間の短縮、荷役時間の短縮、積載効率の向上に取り組んでください」と正面から定めたわけです。
国は荷主が取り組むべき内容を判断基準として具体的に示しています。たとえばトラック予約システムの導入、到着時間の分散、パレットの活用、そして「遅延したときのペナルティの見直し」なんていう項目まであります。遅刻を恐れて何時間も早く着いて待つ、という本末転倒を減らすためです。
役員クラスに物流の責任者を置け、というのがポイントです。今までの荷主企業では、物流は現場任せで、経営会議の議題にすら上がらないことが多かった。それが「経営の仕事」に格上げされたんです。
見張り役もいる──トラック・物流Gメン
「法律ができても、守らない荷主がいるんじゃないの?」──いい質問です。そのために国土交通省にはトラック・物流Gメンがいます。
2023年7月に162名体制で発足して、2024年11月には各地のトラック協会の調査員も加えた約360名体制に拡充されました。ドライバーや運送会社からの情報をもとに、長時間の荷待ちや無理な運賃を強いる荷主を調べて、「働きかけ」→「要請」→「勧告・社名公表」と段階的に踏み込みます。集中監視月間では2か月で400件を超える是正措置を実施して、実際に長時間の荷待ちを理由に社名公表まで至った例も出ています。
そうなんです。取引先や就活生も見るところで公表されるので、企業としては相当なダメージです。「待たせても平気」だった時代が、静かに終わりつつあります。
それでも荷待ちが消えない理由
とはいえ、現場感覚で言えば、荷待ちはまだ消えていません。理由は大きく3つあると思っています。
1つ目は、着時間の集中。 店舗の開店前、工場のライン稼働前など、「その時間に着いてほしい」事情が荷主側にある限り、朝イチにトラックが並ぶ構図はなかなか崩せません。予約システムを入れても、枠の取り合いになるだけのこともあります。
2つ目は、多重下請け。 実際に待たされているのが下請け・孫請けのトラックだと、荷主から見えにくい。荷主が「うちは改善した」と思っていても、末端のドライバーはまだ待っている、ということが起きます。
3つ目は、記録が残っていないこと。 ここは実はドライバー側にできることがあります。荷主都合で30分以上待った場合の記録は以前から義務でしたが、2025年4月からは対象が全車両に拡大されました。1時間以上の荷役・附帯作業も記録対象です。この記録が、Gメンが動くときの証拠になり、待機時間料を請求するときの根拠になり、運賃交渉の材料になります。「待たされた」と言うだけでは変わらない。記録に残った荷待ちだけが、世の中を動かすんです。デジタコや前回紹介したスマホの仕組みなら、ボタンひとつで残せます。
タイガのひとこと
荷待ちの何がつらいって、時間が奪われることそのものより、「自分の時間が誰にも大事にされていない」と感じることなんですよね。約束の時間に着いたのに、何時間も待たされて、謝られもしない。あれが続くと、この仕事への誇りが削られていく。
だから、法律が「待たせる側の責任」と言い切ってくれたことは、数字以上の意味があると思っています。荷待ちが1時間減ったという調査結果は、誰かの晩ごはんが1時間早くなったということです。まだ道半ばですが、方向は間違っていない。待たされたら、記録に残す。それが次の1時間を減らします。
今日もご安全に。


